パンマニア・片山智香子さんと行く、最高のパン屋が集まるパン好きのための街「駒沢」
パンマニアと行く、最高のパン屋が集まるパン好きのための街「駒沢」
特定ジャンルのお店が密集している地域を「激戦区」と呼ぶ。ラーメン激戦区、カレー激戦区、スイーツ激戦区……。競合がしのぎを削り、時に淘汰され、本物だけが生き残る。厳しい世界だ。お店にとってはしんどいが、その筋のマニアにとっては、天国のような街ではないだろうか。そんな街に住めたら、さぞ楽しいだろう。
そこで、その道を究めたマニアに“オススメの激戦区”を教えていただく本企画。今回のナビゲーターは、パンマニアの片山智香子さん。巡るのは、パン屋の激戦区「駒沢」だ。
特徴の異なるおいしいパン屋がバランスよくそろう「駒沢」
“旅するパンマニア”こと、片山智香子さん。これまで、国内外1万個以上のパンを食べ歩いたというから、まさに筋金入りだ。定期的に未開のエリアに降り立ち、その街のパン屋をコンプリートしていくスタイルで、新たなパンとの出合いを求め続けている。
そんな片山さんが、「激戦区」として推すのが駒沢だ。
「特に、駒沢公園の東側、駒沢大学駅から都立大学駅の間においしいパン屋さんが集まっています。私はパンが好きなのではなくて、“おいしいパン”が好きなのですが、自信を持ってオススメできるお店ばかりですよ。バゲットがおいしいお店、クロワッサンがおいしいお店、総菜パンがおいしいお店と、特徴の異なるパン屋さんがバランスよくそろっているのも魅力ですね」(片山さん)
これは頼もしい。さっそく、片山さんオススメのお店を訪ねてみよう。
1軒目:白いクロワッサンに感動!「griotte」
まずやってきたのは駒沢大学駅から徒歩7分の「griotte」。
片山さん、こちらの推しポイントは?
「こちらのシェフは元々パン屋ではなく、フランス料理を本場で学び、料理人として働かれていた方です。ですから、総菜パンの具材なんかもすごくおいしいんですよ。あとは、何といってもクロワッサン。名物の“白いクロワッサン”こと『グリオットクロワッサン』は、絶対に食べるべき。本当に感動しますよ」
実際、筆者も食べてみて本当に感動したのだが、詳しい感想は他に購入したパンと合わせて後ほど。
【griotte】
住所:東京都目黒区東が丘2-14-12
電話番号:03-6314-9286
営業時間:8~19時
定休日:月曜(祝日の場合は火曜)
アクセス:東急田園都市線駒沢大学駅から徒歩7分
HP:https://griotte.jimdo.com/
2軒目:毎日買いたい総菜パンが充実!「ブレッドプラントオズ 八雲本店」
続いては、「ブレッドプラントオズ 八雲本店」。駒沢通り沿いのファンシーなパン屋である。
「ここはパンの特集でテレビ出演した際、2人の女優さんが行きつけのパン屋として挙げていたんですよね。なので、私の中では『芸能人御用達』。でも、まったく気取っていなくて、パン自体は庶民的。毎日買いに行けるような、総菜パンが豊富にそろっています。ちなみに、シェフは人気のフランスパン専門店『メゾンカイザー』で修行していた方です」(片山さん)
なるほど、広々とした店内にはコロッケパンやカレーパン、メンチドッグ、まめパンなど、おいしそうな総菜パンが並んでいる。季節限定のパンもあり、たしかに毎日買いに来ても飽きさせない品ぞろえだ。
なお、パンの感想はやはり後ほど。
【ブレッドプラントオズ 八雲本店】
住所:東京都目黒区八雲4-1-19
電話番号:03-6421-2571
営業時間:パン販売8~20時、カフェモーニングメニュー8~10時、
カフェ通常メニュー10~20時(フード19時LO、ドリンク19時30分LO)
定休日: 無休
アクセス:東急東横線都立大学駅から徒歩15分
HP:http://www.bread-plant-oz.co.jp/
3軒目:やさしい味わいの蒸しパン専門店「目黒八雲むしぱん」
3軒目は「目黒八雲むしぱん」。珍しい蒸しパンの専門店である。
「数年前、駒沢をコンプリートしようと思って探索している時に見つけました。パン友(パンマニアの友達)の情報網にも引っかかっていないノーマークのお店でしたが、予想外においしかったんです。じゃがカレーやツナマヨ、ピザ入りなど、さまざまな蒸しパンがあって楽しいのですが、特にオススメは豚の角煮入り。イートインスペースもあるので、ほのかに温かいできたてをその場で食べられます」(片山さん)
ちなみに、お店に入ると温かいお茶がサービスで出てきた。パン屋でウェルカムドリンクは初体験である。ゆっくり選んでくださいという気遣いがうかがえ、ほっこりした。
【目黒八雲むしぱん】
住所:東京都目黒区八雲3-6-22
電話番号:03-6676-2778
営業時間:10~19時
定休日: 水曜
アクセス:東急東横線都立大学駅から徒歩10分
HP:http://yakumo-mushipan.info/
パンは一人で向き合うもの
さて、購入したパンは近くの駒沢公園で食べることにした。お日柄も良く、絶好の外パン日和である。
「普段から公園にはよく来ますね。パンを食べる時はできる限り邪魔されたくない、じっくりと味わいたいから」と片山さん。パンへの向き合い方が真摯である。
購入したパンのお味は?
1つ目:グリオットクロワッサン230円|griotte
通称「白いクロワッサン」。通常のクロワッサンは香ばしく焼き上げるが、こちらは風味を生かすため程々に。それでいてサクサク感はしっかりあって、カルピスバターの旨みがじゅわっと染みわたる。
2つ目:グリオット430円|griotte
「ほとんどチョコで練った生地」に、チョコチップ、さくらんぼを加えている。外側は時間が経ってもサクサクで、中は「ザ・チョコ」という濃厚かつ香り高い味わい。
3つ目:キッシュロレーヌ390円|griotte
とろっとろのキッシュ。パンチェッタ(ベーコン)の塩気と、じっくり炒めた玉ねぎの甘さがマッチしている。
4つ目:コロッケパン216円|ブレッドプラントオズ 八雲本店
バンズとコロッケのみ、キャベツもマヨネーズもなしという潔さ。ただただ、最高においしいパンと最高においしいコロッケを組み合わせた、シンプルな激うまコロッケパンだ。半分は翌朝に自宅で食べたが、コロッケはまだサクサクしていた。
5つ目:ボルケーノ356円|ブレッドプラントオズ 八雲本店
フォカッチャ生地でチェダーチーズをがっつり巻き込んで、「火山が噴火するように」焼き上げている。火口付近のトロトロ感と、固まった溶岩流のカリカリ感がたまらない。
6つ目:オニオンベーコンブレッド297円|ブレッドプラントオズ 八雲本店
具材はミートソースに玉ねぎ、豚バラベーコン、チーズ。マヨネーズの酸味とブラックペッパーをピリッと効かせた奥深い味わい。よくある総菜パンだが、土台のパンがしっかり美味いので、ものすごく満足感が高い。
7つ目:豚の角煮210円|目黒八雲むしぱん
片山さん激推しの角煮むしぱん。これまたほんのり甘い蒸しパンに、ほどよい味つけの角煮がたっぷり入っている。角煮はほろっとやわらかく、噛みしめるほどに旨みが染み出してくる。
8つ目:基本のむしぱん130円|目黒八雲むしぱん
一番人気。小麦粉と米粉、水だけで作ったベーシックなむしぱんは、シェフのおばあちゃんが作ってくれたおやつを現代的にアレンジしたものなのだとか。なんだかやさしい気持ちになれるむしぱんだ。
「パン意識」の高い街には名店が集まる
さて、ここで改めて、片山さんにパンにまつわるさまざまなギモンをぶつけてみた。
まず、駒沢以外に、おいしいパン屋が集まる街はあるのか聞いてみると「三軒茶屋、代々⽊、⻄荻窪は東京の三⼤激戦区ですね。中央線沿線はおいしいパン屋が多いです。また、最近は恵⽐寿に新しいパン屋がどんどんできています。東京以外だと、鎌倉やあざみ野、たまプラーザもハイレベルです」とのこと。
高級住宅街というか、お金持ちが住んでいそうなエリアが多い気がするが、片山さんの見解はこうだ。
「そのあたりのエリアには、お金をかけてもおいしいパンを食べたいという意識を持った方が多いのだと思います。こだわりを持つシェフやオーナーは、そんなパン意識の高い地域に出店し、集客したいと考えているのではないでしょうか」
では、そうしたパン意識の高い街で、よりおいしい名店に巡り合うコツなどがあればぜひ聞いておきたい。しかし、「コツは特になくて、とにかく数を⾷べ歩くしかないと思います」と片山さん。自身も、本当に感動するパンに出合えるのは半年に1度くらいだという。
「基本的にパン友からの情報提供だったり、評判の良いお店を中⼼に巡るんですけど、それでも半年に1度。ただ、まずは⾊んなパン屋を⾷べ歩いて、⾃分の好みの傾向を探るっていうのは⼤事かもしれません」
その店の「一番人気」は必ず食すべし!
なるほど。そういえば⾃分がどんなパン屋が好きなのかって、ちゃんと考えたことないかもしれない……。
「リッチなパンかリーンなパンか、軽いのか重いのか。バゲットが好きなのか、クロワッサンのようなバターたっぷりが好きなのかで大体分かれますね。パン屋によって得手・不得手がありますし、一番人気のパンも全然違いますから。私はバゲットが好きなのですが、それだけじゃなくて、そのお店の一番人気は必ず食べるようにしています。たまに好みじゃないパンが一番人気のことがあるんですけど、それでも食べてみると自分のパン観が広がっていくんですよね」
“パン観”とは、これまたマニアならではの視点である。たとえ苦手なパンでも、トライし続けることで新たな喜びが得られるというのだ。
「たとえば、私はミルクフランスってあまり好きじゃなかったんですが、⾼⽥⾺場にある『⾺場FLAT』というお店で⼀番⼈気のミルクフランスを⾷べた時に衝撃を受けたんですよ。バゲットがさくっと軽くて、あまり主張してこないんですが、その⽅がミルクフランスはおいしい。以来、むしろミルクフランスが好きになりました」
最後に聞いてみた。片山さんは、なぜそんなにパンが好きなんですか?
「やはり、最初においしいパンを食べた時の衝撃が忘れられないんでしょうね。小さい頃は地元においしいパン屋がなくて、パンって特においしいものだとも思ってなかったし、好きでもなかったんですよ。でも、大人になってフランスを旅行した時のパンがおいしすぎて、これまでに食べていたパンとのギャップに衝撃を受けて……、一気にハマってしまいました。パン屋巡りをしていると、たまにそういう、パンの概念を覆されるような発見がある。それが楽しいんですよね」
ちょっといいパンがあると、生活が楽しくなる
パンが主食の欧州では、お気に入りのブーランジェリーは生活の基本。近所においしいパン屋があることは、クオリティ・オブ・ライフを上げる大事な要素の一つだという。
「今、日本にもこだわりのおいしいパン屋が増えています。街選びの条件の一つとして、パン屋に注目してみるのはアリだと思いますよ」と片山さん。たしかに、ちょっといいバゲットが一本あるだけで、食卓はぐっと華やぐ。生活って案外、パン一つで楽しくなったりするものなのかもしれない。
文・写真=榎並紀行(やじろべえ)
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