【お部屋探訪】映画監督・松江哲明編
友だちの部屋に遊びに行くような感覚で、有名人の部屋に上がりこんでみたい……。そんな妄想から始まった当連載。第12回目の訪問先は、ドキュメンタリー映画監督・松江哲明さんの部屋だ。
●松江哲明
1977年、東京都生まれ。1999年、日本映画学校卒業制作作品「あんにょんキムチ」が一般公開される。同作は、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波特別賞などを受賞する。その後、「ライブテープ」「トーキョードリフター」「フラッシュバックメモリーズ 3D」などの作品を発表。2015年には、清野とおるによるマンガ「ウヒョッ! 東京都北区赤羽」をモチーフにしたドキュメンタリードラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」の監督も務めた。
●中央線で生まれ育ち、北区へ……
松江哲明さんは現在、東京都北区の賃貸一戸建てに、奥さんと愛猫のミーツと暮らしている。もともとは立川で生まれ、実家のある吉祥寺で23年間過ごし、その後も練馬区、中野区とJR中央線沿線に住んでいたという。なぜ、北区に引越したのだろうか?
「中央線は、東京に憧れて上京してくる人が多く、エネルギッシュな雰囲気があるんです。だけど、そういう風潮に疲れてしまい……。だから、そろそろ中央線を離れようかなと。北区にした理由は、マンガ家・清野とおるさんの影響ですね」
松江さんが雑誌で連載をする時に、以前からファンであった清野さんにイラストを依頼。それをきっかけに、北区の赤羽で朝まで飲み明かしたそうだ。その晩が楽しく、次は北区に引越そうと決めたという。
「北区は、”ダメ人間”にやさしい町だなと思いました。昭和の雰囲気がまだ残っているのも好きです。それから『東京都北区赤羽』をどうにか映像化したくて、ならば住むしかないと。映像化できた今では、清野さんに『もう用はないでしょ!』と言われるんですけれども、それでも好きで……(笑)」
●「意味のない扉や柱にワクワクしちゃう」
この部屋を選んだ決め手は?
「築40年ほどの物件ですが、ボロくても構わないんですよね。それよりも物が多いので、広さを重要視しています。できれば収納が、天井の高さまでしまえるような作りだといいですね」
なかなかいい物件が見つからず苦労したそうだが、この部屋を見た瞬間に、「ここだ!」と思ったそうだ。
「増築を重ねたようで、意味のない扉や柱を見るとワクワクしちゃうんですよ。住んできた人の歴史を感じるというか。ここは以前、おそらく下宿に使っていたのでは、と推測しています。あと見た瞬間に、ここにテレビを置こう、ポスターを貼ろうと、イメージがパッと浮かんだのも、この部屋を選んだ決め手です」
●自宅は一家団らんの場所
自宅での過ごし方は?
「この部屋ではなく、居間で一家団らんがほとんどですね。実は、自宅で映画を観るのが嫌いなんですよ。持っているDVDは、3分の2は見ていないですし、開けてもいないかも(笑)。一度、映画館で見ていて好きな作品だから、どうしても手元に置いておきたくて。映画は、できるだけ映画館で見るようにしていて、月20本は見ています。執筆や打ち合わせはカフェでやりますね」
結婚してから生活が大きく変わったそうで、奥さんの生活リズムに合わせ、朝8時に起き、夜12時前には寝るという。家事は分担制で、松江さんは食器洗いや風呂掃除などを担当している。
松江さんのTwitterにも頻繁に登場するミーツ。
「僕は実家で犬を飼っていたので、猫には興味がなかったのですが、ミーツをみつけてからはもうかわいくてしょうがない! 僕が部屋を移動するとついてくるんですよ」
ミーツがいると気持ちが和むそうで、夫婦ゲンカが減ったそうだ。
●映画監督は寄り道が大事
映画監督には、どのような人が向いているだろうか?
「正直、インターネットだけで映画を見ているような人は向いていないと思う。なんだか分からないけれど、本を買うのが好きとか、中古ビデオをこんなに集めちゃいましたとか、そういうことを楽しく感じられる人が向いていると思う。おもしろいことをやっている人は、オタク気質ですよ」
では、これから映画監督を目指して上京してくる人たちに、部屋選びのアドバイスはあるだろうか?
「名画座やレンタルビデオ店が近くにある部屋を選ぶといいですね。あと古本屋もあるといいかも。お店に行くことで、見るつもりがなかった作品との偶然の出会いが起こります。何でも最短ルートで済む便利な時代になりましたが、寄り道をする良さもあると思います。だから、こだわりを持っているお店があるとか、寄り道が楽しい町に住むといいんじゃないですかね」
松江さんは、部屋選びをする際に利便性は求めない。移動の際は、なるべく電車を使わず、自転車を使っている。そうすることで、日によってルートを変えられて、寄り道がより楽しめるという。だから駅から遠い部屋でも構わないそうだ。
「映画監督はいかに視野を持つかが大事だから、効率や利便性で物事を考えないですね。他の制作スタッフだと考慮するポイントは別だと思いますが、でも映画監督は寄り道が大事。あと、のんびりすること。イライラしたら、猫を飼えばいいんじゃないかな(笑)」
(名久井梨香+ノオト)